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鏡の中の世界

ファッション写真は、写真のさまざまな応用分野の中でも、非常に特殊な分野である。それは、何よりも、徹底して人工的な虚構の世界であることに特徴がある。スタジオの中で(あるいは外の空間をスタジオに変えて)細心の注意を払って組み上げられるファッション写真の世界は、他の分野のように?真実?である必要はない。本当らしく見えさえすればそれでいいのだ。その点では?真実?に縛られない分、自由自在にイマジネーションを働かせ、時代の夢や欲望をたっぷりと反映した、魅惑的な幻影を作り上げることが可能だ。写真家たちにとって、ファッション写真は、自分たちの技術と感覚を極限まで突き詰めることができる。実験場としての意味を持ち続けてきた。
鏡の部屋に封じ込められた幻想の小宇宙のようなファッション写真のスタイルを、最初に確立したのはアドルフ・ド・メイヤー(1868-1946)である。
しかし、1920年代になって、ストレートな直線を生かしたアール・デコのデザインが登場するようになると、ド・メイヤーの砂糖菓子のような世界に代わって、もっとモダンなスタイルが求められるようになる。エドワード・スタイケン(1879-1973)やセシル・ビートン(1904-80)のような、より近代的な感覚を備えた写真家たちが、ファッションの世界に乗り出してくるのだ。
30年代になると、ファッション写真は、前衛美術の影響を取り入れ、フォト・モンタージュなどの新技法を吸収して、より多彩な方向に展開していく。ホルスト・P・ホルスト(1906-)、ジョージ・ホイニンゲン=ヒューン(1900-68)アーウィン・ブルーメンフェルド(1897-1969)、マン・レイなどの写真家は、シュルレアリズムの手法も取り入れ、多彩なテクニックを駆使して、鏡の中の世界を緻密に構成していった。
マーチン・ムンカッチ(1896-1963)やトニ・フリッセル(1907-)らは、当時フォト・ジャーナリズムの世界で盛んに試みられていた、小型カメラによるスナップショットを、ファッション写真に応用しようとした。
戦後のファッション写真に新風を吹き込んだのは、アービング・ペン(1917-)とリチャード・アヴェドン(1923-)である。
ペンやアヴェドンがリードした戦後のファッション写真は、ヒロ(1930-)、フランク・ホーバット(1928-)、ウィリアム・クラインらの登場する1960年代になって、より華麗に展開されていく。
そんななかで、プライベートな嗜好、とりわけエロティックな感覚を大胆に取り入れることで、ファッション写真に「ヴィジュアル・スキャンダル」としての衝撃力を取り戻そうとしたのが、ヘルムート・ニュートン(1920-)やロバート・メイプルソープ(1946-89)である。
70~80年代にかけては、サラ・ムーン(1940-)、デボラ・ターバヴィル(1937-)、シーラ・メッツナー(1939-)のような女性写真家の活躍も目立った。